TOP>日本土壌肥料学会2017年度仙台大会 シンポジウム「肥料・ミネラルと人の健康」



        シンポジウム 肥料・ミネラルと人の健康

 ※ 2017年9月7日に開催された日本土壌肥料学会2017年度仙台大会で、渡辺先生がコーデネイトされたシンポジウム「肥料・ミネラルと人の健康」についての資料が、日本土壌肥料学雑誌(第89巻第1号)に掲載されました。全肥商連の全国研修会や施肥技術講習会での講演内容を理解していただく為に参考になると思い、ここに転載させていただきました。なお、参考文献につきましてはその紹介を省略させていただきましたがご容赦下さい。

 渡辺和彦先生  土屋浩一郎先生  田中卓二先生  高野順平先生   倉澤隆平先生  馬 建鋒先生
シンポジウムの趣旨説明
、特に硝酸塩について
 硝酸塩の臓器保護作用:
 亜硝酸塩の体内での代謝
 と生理作用について
 大腸ガン抑制作用から観
 たマグネシウムの働き
 ホウ素の人への健康作用  亜鉛欠乏症の臨床と疫学
 ~多<の医師が考えている
 よりも、はるかに多くの多彩
 な亜鉛欠乏症が存在する
 ケイ素の人への健康
 作用についての考察

  ※ 日本土壌肥料学雑誌の記事はこちらです。

渡辺和彦先生
シンポジウムの主旨説明、特に硝酸について
 肥料・ミネラルは人間の健康に役立っている。このことを皆様に知っていただくため本シンポジウムを開催した。特に硝酸塩は、睡液中微生物によって、亜硝酸塩に変わり、血液中のヘモグロビンに結合し、乳児にはメトヘモグロビン血症を生じる。反芻胃をもつ牛はメトヘモグロビン血症を起こし死亡する事例もある。一方、食品添加物として認められている亜硝酸ナトリウムが、肉に含まれるアミンと反応しニトロソアミンが生成する。ニトロソアミンは、グループ2に分類されている発がん性物質であるため、発がん性を危惧する人もいる。しかし、野菜に含まれる硝酸塩が発がん性を示すとの報告はない。現在では「野菜の硝酸塩は人の健康維持に必須である」との多くの実験事実が世界のみならず、日本の医学・薬学分野の研究者によっても発表されている。

 農林水産省が2016年から2017年にかけて硝酸塩に対する見方、考え方を変えた。「農水省が優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質のリスト」にヒ素、カドミウム、鉛、水銀等と一緒に硝酸性窒素も含まれていたが、2016年1月になって、「現時点で健康への悪影響や中毒発生の懸念が低い(中略)硝酸性窒素について、優先的なリスク管理の対象から外しました。」と公表された。

 それに関連し、2017年3月31日に公表された「農業技術の基本指針(平成29年改定)」では、過去にあった「(2)有害物質等のリスク管理措置の徹底、エ野菜の硝酸塩対策」のエの項目全体が削除になった。さらに、農研機構が2006年付けで「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」をウェブ上に掲載していたが、その内容説明に「硝酸イオン自体は直接人体に害を及ぼすことはありませんが、ヒトにとって全く必要でないものであり、・・」と記述があったが、2017年3月に下記が追加記載された「※硝酸イオンの人体に与える影響については、現在有用な効果も見つかっており、(中略)硝酸低減マニュアル内の記述については、作成時の硝酸に対する認識が反映されたものです。」。

 (一社)全国肥料商連合会主催の施肥技術講習会が2011年より開催されている。講習会で使用するテキスト「土と施肥の新知識」の中に『第7章 3)硝酸塩。亜硝酸塩はガンを抑制』として、国立衛生試験所の前川昭彦の実験デー夕を引用し硝酸塩、亜硝酸塩の発がん調査結果を示した。硝酸塩、亜硝酸とも高濃度硝酸塩、亜硝酸塩摂取区のがん発生率は、低濃度あるいは無添加区よりも低くなっていた。120週後の累積死亡率では硝酸塩、亜硝酸投与区のほうが無投与区より累積死亡率も有意に低くなっていた。こうしたデータと、リロンデルらの要旨を抜粋引用して、結論として、硝酸塩は有害どころか、有益だったと記載した。硝酸塩を有益と記述した日本での土壌肥料の専門書はこの本が最初である。もちろん、講習会では図書には記載していない新しい実験事実も逐次紹介していた。施肥技術講習会は農林水産省後援でもあり、農水省の職員の方々も、私のこうした講義をきいて下さっていた。

 また、「人を健康にする施肥」を翻訳出版した。その本には2頁にわたり、硝酸塩に対する見方が1994年に変わったこと、多くの特筆すべき発見が1994年にあり、人の胃の中には多くの一酸化窒素(NO)が発生していることや、それが、ピロリ菌などのパクテリアを殺す作用がある事実が記述されていた。300頁以上にも及ぶ膨大な図書の翻訳も多くの仲間の協力で出来たのだが、こうした図書の出版も農水省の担当関係者は知っており、硝酸イオンが人の健康に役立っていることも理解していただけた。施肥講習会が始まって、6年間の歳月を必要としたが、農水省の今回の一連の改正は大きく、全国肥料商連合会会長上杉登氏らの全面的な応援のもと、奮闘してきた筆者には感慨深いものがある。
 

渡辺和彦

一般社団法人
食と農の健康
研究所
 
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  ※ 参考資料 「全肥商連第53回全国研修会のチラシ」

土屋浩一郎先生
硝酸塩の臓器保護作用
~亜硝酸塩の体内での代謝と生理作用について



土屋浩一郎

徳島大学
大学院
医歯薬学
研究部
   窒素は人の体を構成する元素では4番目に多く、核酸やタンパク質を形作るのに必須の元素である。野菜には硝酸態窒素(硝酸イオン)が多く含まれており、また近年、野菜を摂取するとその硝酸イオンも体内に取りこまれ、様々な有益な生理作用をもたらすことが知られるようになった。この硝酸イオンの生理作用の研究が進展する契機になったのが、1998年の一酸化窒素(NO)が血管弛緩因子であるという発見に対するノーベル医学生理学賞の授与である。NOの生体内での半減期は非常に短く、体内で迅速に亜硝酸イオン、硝酸イオンへと酸化され、最終的には尿から排泄される。したがって、血液中にはこれらイオンが常に一定量存在している。最近まで、血中の無機の亜硝酸イオンや硝酸イオンはNOの不活性な中間代謝物および最終代謝物と考えられてきた。しかし我々は、亜硝酸塩は体内でNOへと還元されることを、亜硝酸塩の安定同位体を飲水に混ぜて経口投与することで証明し、また他の研究者らによって、硝酸イオンも口腔内嫌気性細菌によって一部が還元されて亜硝酸になり、同様にNOへと変化することが報告された。

 さらに、口腔以外で亜硝酸イオンがNOへと還元を受けるメカニズムについて検討したところ、胃内の様な低pHにおいて酸分解によりNOが生成すること、臓器が虚血に陥った場合、血中および組織中に含まれる亜硝酸イオンが酵素的に還元を受けNOへと変換され、生じたNOが血管を拡張することで虚血に陥った臓器の血流を回復させること、また再灌流時には虚血蔵器内で生成したNOが全身循環に入ることを明らかにした。

 亜硝酸塩の生理作用に関し、2型糖尿病における糖尿病性腎症の発症および病態の進行に対する亜硝酸塩の投与による抑制作用を検討した。2型糖尿病による尿病性腎症は血管内皮細胞障害による内皮NOS由来のNO産生の低下が関与していることが報告されている。そこで我々はSDラットにNOS阻害剤であるL-NAMEを8週間にわたり慢性投与することで、血中NO濃度の低下、タンパク尿の出現、糸球体の虚血性変性・硝子滴・尿細管間質性障害を惹起させ、これらの現象は野菜中心食のヒトが1日に摂取するのと同程度の亜硝酸塩の経口投与で、飲水・餌摂取量に変化無く改善されるという結果を得た。このことは、糖尿病性腎症の予防および病態の進行阻止に、日常摂取する硝酸塩から生成する程度の亜硝酸塩が有用であることを示唆する。これらの知見から、血中及び組織中の硝酸塩および亜硝酸塩は、血管内皮障害時の、NOSに代わるNO生成のためのプールだと認識されるようになった。

 硝酸・亜硝酸による内皮保護作用の機序の一つとして我々は、亜硝酸イオンそのものがシグナル分子としてAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化を介して、eNOS活性化をもたらす知見を得ている。これまで硝酸塩や亜硝酸塩の摂取によって胃内でニトロソアミンが生成し、発癌に関与すると言われてきたが、最近の報告では発癌について根拠が不十分と結論づけられている。また、平成29年度改訂の農林水産省・農業技術の基本指針からは野菜の硝酸塩対策の項目が削除された。最近の多くの報告では、食物(特に野菜)由来の硝酸塩は人の健康に有益であることを支持しており、これらの点から野菜の硝酸塩については一層の研究が必要と考えている。
 
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田中卓二先生
大腸癌抑制作用から観たマグネシウムの働き
 ヒトの体内には約25gのMgが存在している。その約半量が骨に、残りの約半量が筋肉や他の組織に存在している。Mgの生体内での役割として最も重要なものは、生命維持に重要であるリン酸基の転移反応における触媒としての働きである。消化管からのMg吸収と腎臓から尿中への排泄により、Mgの体内量が決まるが、体内保有量を調節する機構は、今のところ明らかではない。近年、Mgに特異的なチャネルTRP melastin(TRPM)6/7が発見され、Mg欠乏時に大腸粘膜で増加することが報告された。Mg欠乏に陥ると易疲労感、筋肉の痙攣、記憶障害、抑鬱症など、多彩な症状が現れ、Mgの慢性的摂取不足が関係する疾患としては、高血圧、Ⅱ型糖尿病、虚血性心疾患、脳卒中、メタボリック症候群(インスリン抵抗性)、糖尿病などがある。MgはCaと並んで日本人の食事摂取基準(2015)を満たしていない主要ミネラルの一つで、Mgは我々現代人では明らかに不足している(30~39歳男性の推奨量は370mg/日、実際の摂取量は234mg/日)。

 さて、癌とMgの関係は古くから言われてきたが、その関係を追及する本格的な研究が開始されたのは、Durlach(1986)の総説に始まる。私たちは、1885~1959年の調査結果「塩田で働く浜男に癌になった人はいない」をタテホ化学工業(赤穂市)の関係者から聞き、これを実験的に証明すべく、動物実験を行った。大腸発癌物質により大腸癌を実験的に誘発したラットに水酸化Mgを混ぜた餌を与えたところ、0ppm水酸化Mgでは44%、500ppm水酸化Mgでは10%、1,000ppm水酸化Mgでは23%のラットに大腸癌が発生した。500ppmの水酸化Mgで、大腸癌の発生が約1/4に減少した。

 2013年になって、Mgの大腸発癌に対する効果とそのメカニズムを明らかにするために、新規の炎症関連マウス大腸癌モデルを使って、水溶性のMg化合物"有機Mg"が大腸発癌に影響するか否かを実験した。大腸発癌物質アゾキシメタン(10mg/kg体重)を1回腹腔内投与した1週後に、重篤な大腸炎を引起す化合物デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を1.5%で水に溶かして1週間飲ませると、ほぼすべてのマウスに大腸癌が多発する。DSSを飲ませた1週間後から、有機Mgを71ppm、35ppm、175ppmの3濃度で飲み水に混ぜて、マウスに投与した。その結果、有機Mgの投与濃度が0ppmでは大腸癌の発生が88%であったのに対し、7ppmの濃度で73%、35ppmで81%、175ppmで47%と濃度依存性に大腸癌の発生率が低下した。特に、175ppmの濃度では約1/2となった。発生した癌の数も全ての濃度で有意に少なくなった。また、有機MgはDSS投与による重篤な大腸炎をも軽減した。最も興味深い所見として、有機Mgが前癌性病変である異型陰窩の個数を半減させ、さらには大腸癌細胞の遺伝子不安定性を軽減したことが挙げられる。

 この発表の前後には、大腸癌発症とMg摂取量は逆相関するという疫学研究成果が報告され、別に、マグネシウムチャネルTRPM7の発現が種々の癌組織で高くなっているという報告が相次いだ。このように、大腸癌をはじめとする癌とMgの関係を明らかにする本格的な研究が進行している。近い将来、Mgの癌に対する効果のメカニズムが解明されることを期待している。
 

田中卓二

岐阜市民病院
病理診断科部
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高野順平先生
ホウ素の人への健康作用


高野順平


大阪府立大学
生命環境科学
研究科
   筆者らは、ホウ素の輸送機構を明らかにしてきた。ホウ酸は電荷を持たない小分子であり、生体膜を比較的自由に拡散で透過する。しかしながら、ホウ酸濃度が低いときには拡散だけで植物の需要をまかなうことができず、膜に埋め込まれた輸送タンパク質を必要とする。一つのタイプはホウ酸チャネルであり、ホウ酸を細胞の中に吸収する。もう一つのタイプはホウ酸アニオントランスポーターであり、細胞内で生成されたホウ酸アニオンを細胞外に排出する。これらが表皮細胞や内皮細胞などで偏って反対側の細胞膜に配置されることで、ホウ酸は土壌から根に吸収され、根の中心方向へ送られる。ホウ酸は根の各細胞の細胞壁でも使われるが、使われなかった分は中心柱にある導管を通ってホウ酸は茎葉へ運ばれる。植物はホウ素栄養条件に応じてこれら輸送タンパク質の量を調節し、ホウ素欠乏や過剰害にならないようにしている。

 動物ではどうであろうか? 魚やカエルにおいては、ホウ素の欠如による発生異常が報告されている。低ホウ素食を与えたラットの雌親において、受精卵の着床率が低下するなどの異常が報告されている。ヒトの細胞レベルでは、筆者らが植物において同定したホウ酸アニオントランスポーターBOR1に相同性を持つ輸送タンパク質NaBC1が、細胞内外のNa+濃度勾配に依存してホウ酸アニオンを輸送すること、ホウ素欠乏が培養細胞の増殖を阻害すること、NaBC1の発現抑制が細胞増殖を阻害しホウ酸添加(0.5mM)がそれを回復させることが報告された。しかし他グループによる検証ではホウ酸アニオン輸送活性も細胞増殖への効果も再現されていない。したがって現時点では動物においてホウ素の機能も輸送機構も明らかではない。

 ホウ素には様々な健康作用が知られている。骨の成長や維持、創傷治癒の促進、中枢神経系機能への寄与、関節炎の緩和、ホルモンの効果促進などである。さらには、前立腺がん、乳がん、子宮頸がん、肺がんなどのがんの調査において発症率とホウ素摂取量に負の相関が見出されている。がんに対してはホウ酸の細胞毒性が効果を発揮するようである。培養細胞を用いた実験で、正常な前立腺の培養細胞は高濃度のホウ酸(>500μM)添加により増殖が抑制されるが、がんの培養細胞はより低い濃度(>100μM)で影響を受けることが報告されている。

 成人のホウ素摂取量としては、1日1.0mg以下では健康作用が得られないとされる。世界各国における調査から1目1.0mg以下は珍しい値ではなく、多くの人でホウ素の摂取量を増やすことが望まれる。ホウ素は肉や魚には少ないが、海藻や野菜、果物に多く、これらから無理なく摂取できる量である。
 
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倉澤隆平先生
亜鉛欠乏症の臨床と疫学
~多くの医師が考えているよりも、はるかに多くの多彩な亜鉛欠乏症が存在する

  2002年秋に、ふとしたことから『多くの医師が考えているよりも、遥かに多くの、多彩な亜鉛欠乏症患者が存在する』ことに気が付いた。プラサドがヒトの亜鉛欠乏症の存在を示唆する論文を出して半世紀余、この間に多彩な亜鉛欠乏症症状が報告されている。日本では、故富田寛等の仕事で、『亜鉛欠乏症と言えば、味覚障害』として知られていた。しかし、それ以外に『これほど多彩な亜鉛欠乏症が多数ある』と実感を持って知っている医師は、ほとんど居なかった。特に、この飽食の時代に、体内にほんの数グラム含まれるという微量元素亜鉛の欠乏症など『余程の特殊な状況でなければ、ない。」というのが、栄養学者はじめ医師や一般の常識でもあった。

 筆者等は、2002年の症例1から亜鉛欠乏症疑い症例を登録・管理し、治療・追跡して来て、現在までの15年間で1,000名を超えた。勿論、少数であるが、長年にわたり、同様の、または他の症状の亜鉛欠乏症を再三再四発症している多くの症例もあり、それらの経験を踏まえて発表する。これらの知見の周知は日常の臨床医療では勿論のこと、国民の保健衛生上の問題としても大切なことと考え、学会や論文、講演やHP(亜鉛欠乏症のホームページ)等あらゆる機会を捉えて、努力してきた。因みに、全国を巡っての講演は今回で186回となるが、常識を覆すことは本当に大変なことで、その証拠に現在でも、日本の医療界では、亜鉛欠乏症の保険収載薬すら正式にないのが現実で、亜鉛欠乏症についてよく知る医師は、まだまだ二割も居ないと考えられる。

 亜鉛欠乏症の症状は、筆者が経験したものだけでも、味覚障害は勿論、食欲減退から拒食にも至る食欲不振、舌痛症を含む舌・口腔咽頭症状・口腔内の粘膜疾患、褥瘡の発症・治癒遅延や老人性皮膚搔痒症など極一般的な皮膚症状や全身性湿疹様の皮膚疾患等々の皮膚科疾患、貧血、慢性の下痢・元気度などにも及ぶ、実に多彩なもので、更には筆者等の一般な診療所では、なかなか経験出来ない身体的な発育不全や性的な発育不全などの繁殖・生殖の問題、骨粗鬆症やリウマチ等々の整形外科関連、眼科的疾患、まだ症例が少ないが易感染性や花粉症など免疫に絡むもの、一部の慢性疲労その他と、多くの多彩な症状・疾患が亜鉛欠乏に関係していると考えられる。

 何故?たった一元素・亜始の欠乏からこの様に多彩な欠乏症状が生ずるのかは、亜鉛の多彩な生体内機能によるが、大きくまとめると①タンパク質の構造維持因子として、②300余ともいわれる酵素の補因子として、③細胞内外のシグナル因子としてなどとされる。診断・治療の詳細は省略するが、亜鉛欠乏症は欠乏症であるからその多くは簡単な栄養や亜鉛の補充療法で、比較的容易に軽快・治癒せしめ得る。

 亜鉛欠乏症患者の多発状況から、『地域住民に亜鉛不足の傾向がある』と予測し、2003年に、北御牧村(当時)の村民、1,431名の血清亜鉛濃度の測定・KITAMlMAKI Studyをはじめとし、長野県下の総計約4,000名を超える地域住民の三疫学調査をして、【長野県民は微量元素亜鉛不足の傾向にある】ことを証明した。この結果は、統計的には【日本国民は亜鉛の不足傾向にある】ことを示しており、重大な問題であると演者は考える。

 何故、この様に亜鉛不足が生じているのか。一番は食と考える。1976~1980年にかけ米国で、約14,700名の一般市民を対象にした血清亜鉛値の疫学調査があり、また、1980年代に(株)SRLが原子吸光法で血清亜鉛値の測定を開始した時、健康成人167名より定めた血清亜鉛値の基準値65~110μg/dLより推定される平均値とそれぞれ比較すると、現在の平均値は、約10μg/dL程低値である。つまり、近年の20数年間に、何が生じたのか? 農業畜産業の①食糧の問題と、②食品添加物、それに、最近問題として気付いたのは、③薬剤、特に多剤服用である。 
 

倉澤隆平


東御市立
みまき温泉
診療所

亜鉛欠乏症の
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馬 建鋒先生
ケイ素の人への健康作用についての考察


馬 建鋒


岡山大学
資源植物科学
研究所
   人の1日のケイ素摂収量は、国によって異なる。アメリカやヨーロッパでは、20~50mg、日本は40mg、インドは143~205mg、中国は139mgである。これは食事の種類と関係している。穀類をたくさん食べるインドや中国では、ケイ素の摂取量が高くなる。細胞の中に取り込まれるのに必要なケイ酸の輸送体に関しては、植物では10年前から幾つか同定されたが、動物では、最近アクアポリンに属するAQP7、AQP9、AQP10に培養細胞でケイ酸の輸送活性が確認された。またラットの腎臓細胞で発現するSlc34a2(NaPiIIb)はケイ酸の外向き輸送体として同定された。Slc34a2は元々Na-リン酸輸送体として知られていた。吸収されたケイ素の4割以上がすぐ尿に排出されるが、一部は主に骨や皮膚などに沈積する。

 骨に最も多くのケイ素が沈積し、骨の形成に重要だとされている。コラーゲンの合成と安定化、マトリックスの石灰化などに働いている。また結合組織に存在するグリコサミノグリカンの形成にも重要である。動物細胞を用いた実験では、ケイ酸を与えると、コラーゲンタイプIの合成が高まった。またオステオカルシンの合成も促進した。オステオカルシンは骨の非コラーゲン性タンパク質として25%を占めるタンパク質であり、骨芽細胞のみから分泌され、代謝調節および骨形成促進性に働くものとされている。

 最近ケイ素が抗糖尿病の効果もあることが報告された。また脂肪細胞に働くインスリン感受性を高めるタンパク質であるアディポネクチンの分泌を促進するとの報告もある。ネズミを使った実験で、50ppmのケイ酸を与え続けると、すい臓や腎臓にあるPPAR-γやアディポネクチンの発現が上昇し、インスリンの発現が低下した。PPAR-γはペルオキシソーム増殖因子活性化受容体として主に脂肪組織に分布して脂肪細胞分化などに関与するほか、マクロファージや血管内皮細胞などにも発現が見られ、インスリン抵抗性改善薬の標的分子とされている。一方、アディポネクチンは膵臓から分泌されるインスリンヘの感受性を亢進させる作用を有し、血糖降下作用の発現に寄与する。アディポネクチン遺伝子のプロモーター領域にはPPAEが存在し、脂肪細胞の分化に必要不可欠な分子であるPPAR-γが結合することでアディポネクチンの産生が促進される。しかし、動物におけるケイ素についての研究はまだ端緒に着いたばかりで、これからまだ検証する必要がある。
 
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